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高森明勅
2016.10.10 10:00

産経「皇室典範」記事は悪意か、無知か

産経新聞(10月10日付)一面に「『ガラス細工』の皇室典範」
という記事。

「たとえ一代限りであっても生前退位を認めれば、膨大な法改正が
必要になる」と。

どこかで聞いたような言い方。

そもそも典範を“ガラス細工”に喩えること自体、首を傾げる。

わずかでも皇室典範改正に踏み込めば、関連法である
皇室経済法や宮内庁法などを次々に改正せねばならな
い。
いわば『ガラス細工』の法体系であり、細心に事を運ばねば、
現行の皇室制度を根幹から崩すことになりかねない」と脅す。

だが、関連の法改正を伴うのは何も特別なことではあるまい。

安保法制はそれこそ典範改正とは比較にならないほど
「膨大な」
関連法の改正を必要とした。

その時に産経新聞は「ガラス細工」などと騒いだだろうか。

実際に必要とされる皇室経済法や宮内庁法の改正など、ごく僅か。

それを知ってこんな記事を書いているのか。

知っているなら、悪質だ。

知らないなら無知も甚だしい。

記事中には秋篠宮殿下を念頭に置いた「皇太弟」
という称号の他に、
皇位継承順位第2位となる秋篠宮さまの長男、悠仁さまにも
皇太甥(こうたいせい)』などの称号が必要になる」とある。

ビックリ。

皇太〇」というのは皇嗣、つまり皇位継承順位“第1位”の場合に
“だけ”使われる。

悠仁殿下は秋篠宮殿下が即位されてはじめて第1位になる。

その時は「皇嗣たる皇子」だから「皇太子」。

無知丸出しと言うしかない。

また「天皇の退位に伴い、皇后の称号を皇太后に変わるかどうかも
議論を呼ぶだろう」とか。

又又ビックリ。

「皇太后」は先代の天皇の皇后の称号だから、天皇が退位されたら
皇太后になられるのが当たり前。

何故「議論を呼ぶ」のか。

これも無知丸出し。

もう一々挙げないが、他は推して知るべし。

記者が無知だから「膨大な作業」に見えてしまう。

それが生前退位にブレーキをかけたい編集方針にもうまく合致する

という記事か。

4面にも関係記事。

今更、明治・昭和の典範で譲位が排除された経緯と、
その排除の根拠になった伊藤博文や金森徳次郎のロジックを
紹介し
ている。

だが、もはやそんなロジックは通用しないことには、
気づいていないようだ。

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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